何百年も倒れずに立ち続けた家。民家初の国宝から学ぶ、これからの家づくり前回は、2026年5月に民家として初めて国宝に指定された2棟の家について書きました。これまで国宝といえば、神社やお寺、お城、茶室など、歴史的な建物を思い浮かべることが多かったと思います。そこに今回、長い間人が暮らしてきた「民家」が加わりました。何百年も前に建てられた家が、今も残っている。それだけでもすごいことですが、このニュースを知ってから、私は昔の家のことだけではなく、今の私たちが建てている家についても考えるようになりました。「家って、新しいことだけが大事なのかな」そんな疑問です。日本では新しい家ほど価値がある?家を買うとき、多くの人が新築を選びます。新しいキッチン。新しいお風呂。新しい床や壁。誰も住んでいない、きれいな家。新築にはたくさんの魅力があります。私自身も、新しい家を否定するつもりはありません。今の暮らしに合った設備があり、断熱や耐震など、昔にはなかった性能もあります。ただ、日本の住宅は「新しいこと」に価値がつきやすいと言われています。家を建てて、何十年か住んで、古くなったら建て替える。家は長く使うものなのに、築年数が増えるほど価値が下がっていく。そんな考え方が、長い間当たり前のようにありました。「築30年だから古い家」「築40年だから建て替え」そんな言葉を聞くこともあります。でも、今回国宝になった家を見ていると、少し違った考え方もできそうです。古くなることは、本当に悪いことなのか木の家は、時間が経つと色が変わります。床には傷がつきます。柱にも、暮らしてきた跡が残ります。新築のときと同じ状態ではなくなっていきます。それを「古くなった」と考えることもできます。でも、そこに家族が暮らしてきた時間があると、見方は変わります。子どもが小さい頃につけた傷。家具を置いていた跡。毎日家族が触っていた柱。何年も使ってきた木の床。新品ではないけれど、その家でしか作れない表情があります。新築の家には、まだ何もありません。そこから暮らしが始まり、少しずつ家族の色がついていく。家が古くなるのではなく、家族と一緒に年を重ねていく。そんな考え方があってもいいのだと思います。何百年も残った家から考えること今回国宝になった2棟は、14世紀から15世紀に建てられたとされています。今から何百年も前です。その頃には、今のような住宅メーカーもありません。住宅展示場もありません。パソコンで間取りを作ることもできません。それでも、その土地で暮らすための家をつくり、手入れをしながら次の世代へ渡してきました。長い年月の中で、雨も降ります。風も吹きます。暑い夏も、寒い冬もあります。地震もあります。それでも家は残ってきました。もちろん、昔の家ならすべて丈夫だったという話ではありません。今の住宅とは、使っている材料も作り方も違います。今は今の技術で、安全な家をつくる必要があります。それでも、昔の家から学べることはあります。その土地の気候を知ること。土地に合った家をつくること。無理のないつくりにすること。壊れたら直して使うこと。使えるものを大切にすること。何百年も残った家には、そんな昔の人の知恵が詰まっています。「30年後」だけを考えない家を建てるときは、どうしても今のことを考えます。今の家族には何部屋必要か。どんなキッチンがいいか。収納はどれくらいいるか。予算はいくらか。どれも大切です。でも、家は数年で終わる買い物ではありません。10年後には子どもが成長しています。20年後には家族の暮らし方も変わっています。30年後には、今とはまったく違う生活になっているかもしれません。そのときも、その家で暮らしたいと思えるか。必要なところを直しながら使えるか。家族の変化に合わせて使い方を変えられるか。そんなことまで考えて家をつくることも大切だと思います。「30年経ったから古い家」ではなく、「30年経ったけれど、まだこの家で暮らしたい」と思える家。そんな家が増えたら、住宅に対する考え方も少し変わっていくかもしれません。家の価値は、売るときだけではない家の価値というと、いくらで売れるかを考えることがあります。土地の価格。建物の価格。築年数。立地。もちろん、将来売る可能性を考えておくことも大切です。でも、家の価値はそれだけではありません。毎朝、家族を送り出す場所。仕事から帰ってきてホッとする場所。子どもが宿題をする場所。家族でご飯を食べる場所。何でもない話をしながら過ごす場所。家族にとっては、そうした毎日の積み重ねも家の価値になります。何十年後かに家を見たとき、「この傷、子どもが小さい頃につけたな」「この場所で毎日ご飯を食べていたな」と思い出せる。そんな家なら、数字だけでは表せないものが残ります。「建てて終わり」ではなく「暮らしながら育てる」新築住宅は、完成した日が一番新しい状態です。でも、家族にとっての家は、そこから始まります。家具を置いて。カーテンをつけて。家族が暮らし始めて。季節を何度も過ごして。少しずつ、その家が自分たちの家になっていきます。床に傷がついてもいい。壁に思い出が増えてもいい。必要になったら修理すればいい。暮らし方が変わったら、使い方を変えればいい。そんなふうに、家を大切にしながら長く使っていく。昔の民家が何百年も残ってきた背景には、そうした暮らし方もあったのだと思います。100年後の家を考えてみる今回のニュースを見て、ふと考えました。今、私たちが建てている家を100年後の人が見たら、どう思うのだろう。「昔の家だな」と思うかもしれません。「こんな家で暮らしていたんだ」と驚くかもしれません。もしかすると、誰かがその家を大切に残してくれているかもしれません。もちろん、すべての家を100年残す必要はありません。国宝になるような家をつくろう、という話でもありません。ただ、自分たちが暮らす家を「何十年か使ったら終わり」と考えるのか、「できるだけ長く使いたい」と考えるのか。そこは、これからの家づくりで大きな違いになると思います。家を建てるとき、見た目や設備を選ぶことは楽しいものです。でも、その家が建つ場所のこと。家を支える地盤のこと。長く暮らすための強さのこと。年月が経っても使い続けられるつくりのこと。そこにも目を向けてみてほしいと思います。何百年も前に建てられた家が、2026年になって国宝になりました。建てた人たちは、何百年後に国宝になることを考えていたわけではありません。その土地で家族が暮らすために、家をつくった。そして、暮らしながら手を入れ、次の世代へ渡してきた。その家が、今も残っています。今回のニュースは、昔の家を褒めるだけの話ではないと思います。これから私たちは、どんな家を建てていくのか。新しいことだけを追いかけるのか。時間が経つことも楽しめる家をつくるのか。家を「消耗品」のように考えるのではなく、家族と一緒に育てていくものとして考えてみる。そんな家づくりが、これから少しずつ増えていったらいいなと思います。何百年も残った一軒の民家が、今を生きる私たちに教えてくれること。それは、丈夫な家をつくることだけではありません。その土地で暮らし、家を大切に使い、次の世代へ渡していく。家は、建てた日から古くなっていくものではなく、暮らした時間だけ思い出が増えていくもの。そんな家のあり方を、もう一度考えてみるきっかけにしてみてもいいのかもしれません。